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「ものづくりの仕事をする者は知識や技術だけでなく感性を磨く必要がある。」

調理の職に携わる筆者は、日ごろから料理長にそう言われていた。確かに料理長の考えるメニューは独創的で、盛り付け一つ取っても華やかで美しい。それは誰かのまねではなく、正真正銘その場のインスピレーション、感性から生まれているに違いない。

 

では感性を磨くにはどうすればよいのか。「芸術を見に行け。」と料理長は言った。美術館で絵や彫刻を見たり、オーケストラを聴きに行ったり。そこで何かを得ようと躍起になるのではなくその空気の中に身を置くことで感性は磨かれていくのだという。

 

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MIHO MUSEUM (ミホミュージアム)

そこで私は地元で有名な美術館を探した。すると滋賀県甲賀市信楽町にミホミュージアムという美術館をみつけた。ここは何やら桃源郷と呼ばれるトンネルが有名らしい。そのトンネルは桜が反射しピンク色になるそうだ。桜の時期は過ぎてしまったがただの美術館では無さそうな雰囲気に惹かれ、ちょうど期間限定の現代美術展も開催しているとのことだったので行ってみることにした。

 

 

新型コロナウイルス感染対策のため来館は予約制となっていたため、前日にインターネットで来館時間の予約とチケットの購入を済ませ、いざ当日。あいにくの雨の中車を走らせ、名神高速西宮線、栗東ICを降りて約30分。霧が霞みところどころで藤の花が咲く山の中を登っていくと「MIHO MUSEUM」の看板が。駐車場に車を停め案内板に従って歩く。ここはレセプション棟と美術館棟の2つの建物で構成されており、その間を例のトンネルが繋いでいるようだ。最初に着くレセプション棟は自然農法で育てられたこだわり食材の料理が食べられるレストランなどもある、本館との中継地点のようだが今回はそのまま本館へと向かう。

 

トンネルは桃源郷 

両脇にしだれ桜が並ぶ道を歩くと着いた。噂のトンネルだ。少しカーブしていて入り口からは出口が見えずどこまで続いているのかわからない。まさに桃源郷への道という感じだ。

そしてここからが真骨頂。トンネルに入り50mほど歩いて振り返ると銀色のトンネルの壁に新緑の緑が映っている。荒天で光が少なかったためか前調べの写真で見ていたほどの鮮やかな光景は見られなかったが、それでも薄暗いトンネルが明るい緑に染まる様は幻想的で美しかった

 

ガラス張りのこじんまりした建物

感傷に浸りながらトンネルを抜け、橋を渡ると森の中に白い骨組みにガラス張りのこじんまりした建物が埋まっていた。ここが本館のようだ。傘をたたみ、受付と検温をして館内へ。入って正面のエントランスホールは外から見たこじんまりした様子とは打って変わって広々とした空間になっていた。白を基調とした床や壁にガラス張りの天井から差し込む柔らかい自然光がそう感じさせる。

 

左右に伸びた廊下の先にそれぞれ展示室があるようだ。まず期間限定の現代美術展に向かった。大正から昭和、平成にかけて新しい日本美術を追い求めた数々の作家たちの作品がずらりと並ぶ。過去の人物の描いた絵や書物に織物や染物、模型等が今目の前にあることが感動的でどんどんのめりこんでいく。同じ作者の作品も全く絵の雰囲気が違ったり、字の書き方が違ったりすることが面白く、その作者の人間性まで興味が湧いてくる。

 

展示室を出ると疲れ切っていた。夢中になりすぎて作品に深くのめりこみ、情報量の多さに頭がパンクしていた。休憩がてら手近な椅子に座り壁に貼ってある説明書きを眺めていた。そこではこの美術館の設計した人物について書いてあった。その人物の名前は『I.M.ペイ』。なんとパリのルーブル美術館にあるガラスのピラミッドの設計もした世界的に有名な建築家だった。また桃源郷とはトンネルだけでなく館全体のモチーフとしており、「自然と建物」「伝統と現代」「東洋と西洋」の融合をテーマにしているそうだ。美術館をただ作品を展示するための場所ではなく、そこにある作品を象徴し融合させて一つの美術品を生み出そうという考えのもと設計されているのだ。

 

テーマの通り期間限定美術展の他には、エジプト、ギリシャ・ローマ、西アジア、南アジア、中国と各展示室があり、あらゆる時代の芸術品が展示されていた。展示室ごとに全く違う文化が集まっているのに不思議と世界中を周っている感じはしない。もちろん個々に特徴はあるものの、あくまで展示室前の雰囲気は入館した時点から一貫して近代的な雰囲気で統一されており、一体感が感じられる。

 

最後に

自分の感性を磨くために来たこの場所で歴史と現代をつなぐ、いわば「温故知新」の心を感じることができた。現代に残る芸術の数々に触れた経験を積み重ねることで、自分だけの新しい作品が己の内側から生み出されてくる。この感覚を日々の料理に活かし、何度も繰り返して自分を磨き続けていこうと決意し、緑の映るトンネルをくぐった。

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